大判例

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東京地方裁判所 昭和25年(行)9号 判決

原告 田中穰治

被告 国

右代表者 法務総裁

一、主  文

一、昭和五年三月十七日為した原告の日本国籍の離脱及び昭和十七年八月二十四日内務大臣が原告に対して為した日本国籍回復の許可は何れも無効である事を確認する。

二、原告其の余の請求は之を棄却する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告は主文第一項同旨及び原告の有する日本国籍は出生に因る日本国籍である事を確認する。

訴訟費用は被告の負担とするとの趣旨の判決を求め其の請求原因として、(一)原告は大正三年(西暦一九一四年)八月八日アメリカ合衆国カルフオリニア州に於て父日本人田中直次郎の長男として出生し、同国の国籍を取得した日本人であつたが、昭和五年三月十七日国籍法第二十条ノ二第二項の規定に依り日本国籍の離脱を為した事となつて居る。而して原告は其の後日本に住所を有するに至り昭和十七年六月八日内務大臣に対して日本国籍の回復を申請し、同年八月二十四日其の許可があつたので戸籍簿には東京都新宿区下落合二丁目七百二十二番地に原告が一家を創立した旨記載されて居る。(二)けれども前記国籍離脱の手続は原告が当時已に満十五歳余で自ら之を為す能力があつたにも拘らず、父田中直次郎が原告の意思を問う事なく擅に原告の名を冒用し、昭和五年二月十日附の届書を以つて為したものであるから其の離脱は無効であり、原告は其の出生に因る日本国籍を喪失したものでない。(三)然るに法律に基き原告は已に日本国籍を喪失して居るものと誤信し、前記国籍回復の申請を為し其の許可を受けたのであるから、其の許可は当然無効である原告の有する日本国籍は依然として出生に依る日本国籍である。仍つて其の旨の確認を求むる為本訴に及んだのであると述べ、被告の抗弁に対し、原告は父直次郎が無断でした離脱の届出を有効なものと誤信して国籍回復の申請をしたのであるから、追認の規定が類推せられて追認の効力を生ずべき道理なく、又仮りに離脱の無効事実を知つて右の申請を為したとしても其の申請は追認の意思表示を含むものではない。

仮りに含むものとしても離脱の届出は要式行為(国籍法施行規則第三条第四条参照)であるから、追認の意思表示も亦同様の要式行為でなくてはならぬが其の意思表示には此の方式を欠いているから、其の効力を生じないと反駁した。(立証省略)

被告は、原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とするとの趣旨の判決を求め、其の理由としての原告の有する日本国籍が出生による日本国籍である事の確認を求める請求は確認の利益を欠き却下さるべきものである(昭和二十四年十二月二十日昭和二十四年(オ)第二四号最高裁判所判決参照)と述べ予備的に、

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。

との趣旨の判決を求め、請求原因に付(一)原告が其の主張日時アメリカ合衆国カリフオルニア州に於て日本人田中直次郎の長男として出生し、同国の国籍を取得した日本人であつた事、昭和五年三月十七日国籍法第二十条ノ二第二項の規定に依り原告が日本国籍の離脱を為した事になつて居る事、其の後原告が日本に住所を有するに至り昭和十七年六月八日内務大臣に対して日本国籍の回復を申請し同年八月二十四日其の許可があつた事、

従つて、戸籍簿には原告主張の場所に原告が一家創立した旨の記載がある事は何れも之を認める。(二)併し、右国籍離脱の届出が原告の父田中直次郎に於て為したものである事、右田中直次郎が原告の意思を問う事に為したものである事は否認する但し、当時原告が満十五年余であつた事は之を認めると、述べ、仮りに右田中直次郎が為したものとしても国籍の離脱は原告に対し重大な手係りを有する事項であるから原告の同意を得て之を為したものと推断するのが相当である。

仮りに然らずとするも原告は其の後自ら国籍回復の申請をして日本国籍を回復して居るのであるから、追認に関する法理を類推して父直次郎の為した国籍離脱手続の瑕疵は之を主張し得ないと解すべきであると主張した。(立証省略)

三、理  由

一、確認の利益は本案裁判の前提要件であると共に訴訟上の請求の充足理由として訴訟法上必然に要求せられる要件の一であつて、所謂訴訟条件でないと解するのが妥当である。故に、確認の利益の有無に関する弁論は本案の弁論であり、確認の利益なしとして請求を排斥する裁判は請求が理由のない事を確定するのと同一の意味を有すべきものである。(従つて、右の如き裁判は本案に関する被告勝訴の裁判に外ならないのである。)確認の利益なきが故に原告の本件訴を却下すべきものと為す被告の主張は夫れ自体採用するを得ない。

二、成立に争のない甲第二号証によれば昭和五年二月十日附を以つて原告の名による国籍離脱届が提出されて居る事を認める事が出来る。而して証人田中直次郎の証言によれば右届書の原告の署名は右証人田中直次郎が之を為したものである事を知る事が出来る。此の事実は当裁判所の検証の結果と綜合する。従つて此の点に関する原告の主張は其の証明が十分である。当時原告が満十五年余に達して居た事は当事者間に争はない。

故に当時施行中の国籍法施行規則第三条第二項により右届書は原告自ら之を為す事を要するに拘らず右認定の如く原告の父田中直次郎が之を為したものであるから、仮令右直次郎が原告の法定代理人であり、且つ同人に於て原告を代理する意思を以つて為したものである事疑いのない所であるとは云え、右の届出に付ては其の本人が国籍離脱の意思を有して居る事が其の実質的要件である事は疑を容れぬ。

故に若し本人に於て国籍離脱の意思を有して居なかつたとすれば、代理によつて為された同書は無効と謂わざるを得ない。

本件に於て原告の国籍離脱の届出をなしたものは前記認定の如く原告の父直次郎であるから、一応原告の意思を確めたものと推定すべきである事は被告主張の通りである、併し、右は推定に止る。原告は此の点に付て反証を以つて右推定を覆えす事が出来るのである。前示田中直次郎の証言及び之と一致する原告本人の供述は右推定を覆えして原告主張の如く原告は当時国籍離脱の意思を有せず原告の父田中直次郎に於て何等原告に因る所なく、全く独断を以つて本件離脱の届出を為した事実を肯定するに足りる。故に原告名義を以つて為された国籍離脱の届出は無効であると判定すべきである。

三、原告が昭和十七年六月八日内務大臣に対して日本国籍の回復を申請し、同年八月二十四日其の許可があつた事は当事者間に争のない事実である。

被告は原告の右国籍回復の申請を以つて国籍離脱の追認であると主張するけれども、追認は追認の意思を以つて為されなければならないのであるが、原告の右国籍回復の申請は当然に右の如き意思を包含するものと解する事は出来ない。

何故なれば原告は国籍離脱の届出が有効であると誤信して国籍回復を為す事は十分にあり得る事柄だからである。

(現に原告は本件に於て右の如く主張して居るのである。)

被告は此の点に付他に何等の立証をして居ない。

故に追認を前提とする被告の前提抗弁も亦採用するに由ない。

四、已に原告の国籍離脱が無効である以上原告の国籍回復の申請及び之に基く内務大臣の国籍回復の許可も亦無効である事は論を俟たぬ。

何んとなれば原告は国籍を離脱して居らず従つて国籍の回復は法律上不可能であるから右内務大臣の許可は結局法律上不可能な事を目的とした処分行為に外ならぬからである。

五、従つて原告は右原告の日本国籍離脱及び日本国籍回復許可の無効確認の判決を求める事が出来る。

蓋し右は原告の日本国籍取得に関する重要事項であり、此の点に関する戸籍簿上の記載を訂正する事は原告が法律上有する利益であるからである。(右確認事項が現在の法律関係に関するものである事は明白である。)

六、併し、右請求以外に原告の有する日本国籍が出生に因る日本国籍である事の確認を求むる原告の請求部分は失当として排斥すべきものである。

何んとなれば右事項は戸籍の訂正に何等の必要を見ないのみならず、前記原告の日本国籍離脱及び内務大臣の日本国籍回復許可の各無効確認判決によつて戸籍が訂正せらるれば之によつて該事項は十分に証明し得られる所であり、而も此の点に付当事者間には何の争もないからである。従つて原告は前記出生に因る日本国籍を有する事の確認判決を求むる法律上の利益は之を有しない。

七、訴訟費用の裁判は民事訴訟法第九十二条但書によるべきものである。

仍つて主文の如く判決する。

(裁判官 安武東一郎 古山宏 石渡満子)

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